入学準備のスケジュールから、学習・生活環境の整え方、小学校で必要な準備物まで。
子どもたちの学びをサポートする「ベネッセ教育情報サイト」の中から、入学準備に役立つ情報を厳選してお届けします。
今回のテーマは、「入学前の子どもたちに保護者がしてあげられること」です。
春に小学校に入学予定のお子さまを持つ保護者は、卒園や入学準備に忙しい日々を過ごしていることと思います。子どもの成長に喜びを感じるとともに、「うちの子、小学校で大丈夫かしら?」と不安に思われているかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、Benesse教育情報サイトの連載「教えて! 親野先生」でもおなじみの親野智可等先生に、家庭でできる入学準備についてお話を伺いました。
小学校入学前の子どもたちは、期待と不安でいっぱい!
編集部 まず、小学校入学を前にした子どもたちの心理状態について教えてください。
親野先生 幼稚園なり保育園なり年長さんの新学期……、つまり年明けくらいから、子どもも明らかに「小学校入学」を意識し始めます。周囲の人たち、親も親類もきょうだいも保育士さんも「今年は1年生だね」って言いますしね。まわりがそう言うものだから、「1年生なんだなあ」って気持ちは高まってくるんですね。幼稚園や保育園でも何かと「一ねんせいになったら」を歌ったり……。だんだんと緊張が高まってくるんですね。期待と不安、両方あります。特に、一日入学を終えて、学校用品を買って……と準備が進むうちに、小さいなりに「いよいよだな」と小学校入学を意識する。子どもにとっても一大イベントなんですね。子どもは意識していないように見えるかもしれませんが、けっこう意識してるんです。
編集部 子どもたちは期待でいっぱいで、わくわくしているのかと思っていましたが……。実は、緊張しているのですね。そんなとき、保護者は子どもにどう接すればいいでしょうか?
親野先生 緊張が高まっているときに、親御さんの対応のしかたで、期待と不安の「不安」部分が膨らんでしまうのはまずいですよね。
親御さんも心配なので、子どもに「○○ができないと1年生になれないよ」「恥ずかしいでしょ」とついつい言ってしまう。「否定的なことは言わない」と思ってはいても、ついつい口から出てしまうんですね。親御さんが不安なのもわかるんです。特に第1子だと経験もないですからね。自分でも意識しないうちに否定的な言葉を口にしてしまう。これは、子どもにとってはプレッシャーですね。結果として、不安ばかりが膨らんで期待がしぼんでしまうことになりかねません。子どもに不安を与えるような言葉は言わない。否定的表現をしない。罰則型の言葉は使わない。
親御さんは子どもが自信を持てるようにしてあげること。「1年生になってもわたしはやっていける」という自信を持たせてあげることが、このうえなく大切な入学準備なんです。まず最優先することは、子ども自身が自信を持って4月を迎えられるようにしてあげることですね。
とにかく、誉めてあげる。これしかないんです
編集部 保護者のかたからは、「どう誉(ほ)めればいいかわからない」という声をいただきます。「誉める」秘訣のようなものがあったら教えてください。
親野先生 まずは、今その子ができることを誉めるといいと思います。幼稚園や保育園でできるようになったこと、靴を履くときに左右逆だったのが正しく履けるようになったり、自分で顔を洗えるようになったり、歯磨きできるようになったり……。保護者にとっては当たり前のことで、すぐに次も……と思ってしまうのもわかるんですが、日常の小さな一歩を見つけて、できるだけ具体的にたくさん誉めてあげることです。
あと、他の子と比べないことも大切ですね。「お姉ちゃんはもっと早くできるようになったのに……」などきょうだいと比べるのも止めたほうがいいですね。マニュアルとも比較しない。「何歳までに○○できる」など。雑誌や本は一応の目安にはなるかもしれませんが、決して絶対的なものではありません。どの子にもその子独自の成長ペースがありますので、それを無視して急かすとどこかに≪ひずみ≫が出ます。
親御さんも「一日ひとつは必ず誉める」などを目標にするといいと思いますよ。「来週から誉める」などにしてしまうと、決意が漠然としていてできなかったりするので、具体的に決めて、すぐ実行し始めるとよいですよ。
それでもうまく続かないときは「誉めタイム」を決める。夜寝る前に必ず誉めるなど、親御さんが徹底するといいですね。夜寝る前に良い気持ちになるとすごく良く眠れます。寝る前に誉めてあげる。伸びたこと、がんばったこと、楽しかったことなどを反芻(すう)してあげるのもいいですね。「今日は遊園地に行って楽しかったね」と。
編集部 「また○○してない。なんでちゃんとできないの? ○○しなきゃダメでしょ」などの否定的な言葉は、なぜいけないのでしょうか?
親野先生 否定的な言葉をいつも浴びていると、子どもは自分に自信が持てなくなります。同時に、親に対して「もしかしたら、自分はあまり好かれていないかも……」という愛情不足感や不信感を持つようになります。さらに、親の言葉遣いは子どもにうつりますので、子どもも否定的な言葉を使うようになります。それによって、子どもの人間関係がうまくいかなくなることもあります。私の教えた子でも、親が「○○しないとおやつ抜きだよ」などの罰則型の言い方が多いので、子どもも友達に「○○しないと遊んでやらないよ」などと言うようになった例もあります。
編集部 「いつも肯定的に言ったり誉めたりするのは難しい」と思うのですが……。
親野先生 そうですね。そういうときは、単純型で言うといいでしょう。「また○○してない。○○しなきゃダメでしょ」と言うのでなく、単純に「さあ、○○しよう」「3分で○○するよ。用意、ドン」などでいいのです。できるだけ、明るく楽しい感じで。子どもとの生活では、どうせ同じことを何回も言うことになるのです。どうせ言うなら、明るく楽しい気持ちになる言い方で言ったほうがいいと思います。
友達関係は言葉で決まる!
親野先生 子どもの学校生活は、生活習慣・友達関係・勉強が3つの柱になると思うのですが、その中の友達関係は言葉で決まると言っていいでしょう。
これは、あまり知られていないことだと思いますが、肯定型・単純型を使うことで友達関係が円滑になる。子どもが学校を嫌いになるのは、「友達とうまくいかないから」というのが、「先生と合わないから」というのと同じくらい大きな理由です。そのほとんどは使う言葉を変えることで回避できるかもしれないんですね。ぜひ、親御さんにも試していただきたいと思います。
編集部 入学前の子どもたちも、実は緊張が高まっている……ということで、とにかく、不安な気持ちを取り除いてあげたり、自信を持たせてあげたりすることが大切なんですね。とても勉強になりました。ありがとうございます!
親野智可等
教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。